【映画】トウキョウソナタ/黒沢 清

黒沢監督の映画の中の家族は、幻想の中の理想的な家族像ではない。
みんなバラバラであり、それがリアルなのだ、と気づかされることで、さっぱりした気分になる。

映画では心理のドラマではなく、肉体をみせたい、という黒沢監督。
ティッシュを配るバイトをしている大学生の長男が、配れなかったティッシュを無造作に川に捨てるシーンに惹かれる。

家族を守るためにアメリカの軍隊に入る、と言う長男を殴る父親は失業を家族に隠している。
「お父さんは家族を守るって言っているけれど毎日なにをしているんだよ」という長男に返す言葉がないのだ。

大企業の課長だったのだが、突然リストラされて、ハローワークで紹介される仕事は掃除やアルバイトしかない。
権威を守るためには失業を隠さなければならない。

大勢の浮浪者が公園を、行進していく。

いろいろな、リアルで陰惨なエピソードの果てに、やってくるラストシーンはとても美しかった。
映画で泣いたのははじめてかもしれない。
(柳)